72.血と膿

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「ごめんね。」 洗面所から出てきたリュウに言った。 「うん。」 リュウは聞こえるか聞こえないかくらいの声でぼそっと答えるとすぐに着替え始めた。 体調が悪そうな感じは洗顔や歯磨き程度では拭えない。今にも嘔吐しそうな冴えない顔色で整髪も適当だ。 「大丈夫?休んだら?」 私は言った。 「いや。行く。ミオは?」 「私は休む。」 「そう。」 リュウはそれ以上何も言わなかった。どうしたの?とか具合悪いの?とか、いつもなら聞くようなことも聞かなかった。 体調のせいではなかった。だから聞かれなくてよかった。別の心づもりがあるからだがリュウに言うつもりはなかった。 リュウは着替えを済ますと立ったままコーヒーを一口だけ飲んで、携帯や定期、財布、鍵などを掴んで玄関に向かった。 「いってらっしゃい。 ほんとにごめんね。」 私はリュウに言った。 「いいよ、もう。」 リュウはドアノブに手をかけたところで一瞬振り返って私の顔を見て何かを言おうとしたようだった。が、結局何も言わずにドアのほうに向き直って行ってしまった。 私はリュウが出ていったドアをやりきれない気持ちでしばらく見ていた。
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