72.血と膿

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「とにかく行くから。お父さんにも出かけないでって言っておいて。」 「わかったわ。何時頃?」 「19時頃。」 電話を切った。母に対して罪悪感を感じるべきなのだろうが微塵も感じなかった。 私は家族の中の異端児だった。 母は気位の高い女王として家族に君臨していた。母の王国にあって父は夢見がちで優柔不断な国王であり、兄は忠実な騎士のようだった。私は母の理解の範疇から外れた無軌道なじゃじゃ馬娘だった。だからつねに私と母の間には衝突と緊張が絶えなかった。私は母の価値観にすべて反感を持ち、ことごとく反抗してきた。母はそんな私をいつも枠にはめようと無駄な努力をしてきた。その度に母の価値観に挑んだ。父はそんな様子を傍観者の目で眺めているだけだった。兄は要領の悪い妹として冷めた目で見ていた。 母の王国なんか壊してしまいたかった。崩壊するなら崩壊するがいいと思った。
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