73.負の遺産

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階下で兄が来たらしい物音がした。自分で呼んでおきながら下りていく気にもなれなかった。 やがて誰かが階段を上がってくる音がして私の部屋のドアがノックされた。 「入るぞ。」 兄が部屋に入ってきた。 「なんだよ。誰も来てないじゃないか。 母さんはどうしたんだ?何を聞いても一言も何も言わないし。 喧嘩でもしたの?」 私はしばらく黙っていた。 「お兄ちゃん。」 「ん?」 どう切り出していいかわからなかった。 ただ何も言わずに兄の顔を見つめていた。私の思い詰めた様子に兄は困惑しているようだった。 「どうしたんだよ?話してみろよ。」 「うん。」 そう答えたものの、私はまだ何をどう話し始めればいいのかわからなかった。
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