73.負の遺産

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私がドアに手をかけたところで小野田が急に私の腕を掴んで止めた。 「やっぱり私帰る。」 「え?」 私は振り返って小野田を見た。 「いまさら…」 私が言いかけた途端にドアが中から開いた。 小野田はびくっとしてそのまま固まった。 「何してる…」 ドアを開けながら言いかけた母も、視線が私から私の背後にいる小野田に移った途端に言葉を失ってそのまま固まった。 ドアに手をかけたまま「どうぞ」も何も言わずに立ち尽くしていた。一瞬ののち、我にかえったようにドアを大きく開けると後ろに下がった。視線は小野田に注がれたままだった。 私は無言のまま玄関に入った。小野田はまだ玄関の外で微動だにせず立っていた。その目が部屋から玄関に出てきた父を見たのがわかった。ショックに見開かれた目。 私は父のほうに向き直った。父も全く同じ目をしていた。
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