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どうやら
一人で飲んでいたのはお酒が好きだからというわけではないらしい。
実際、一人飲みでも好きな程の酒好き酒豪だったらどうしようかな…
って思っていたんだけどね。
俺、お酒そんなに強くないから。。
彼女には好きな人がいるんだそうだ。
大学時代のサークルの先輩。
彼は卒業後、海外勤務で遠距離恋愛。
でもその先輩が好きで好きでずっとず~っと待ってんだって。
彼氏とも呼べるかどうかも分からない奴を。
もう、6年も。
気が付いたら、アラサーなんて呼ばれる年齢にまでなってしまったと、
悲しい目をゆらゆらと揺らしながら彼女は微笑んだ。
「……。」
馬鹿?
有り得るだろうか。
6年も顔を見ていない、声を聞いてもいない。
ましてや連絡さえも頻繁には取り合っていないという、そんな恋愛。
ハハッ
それ、絶望的だね
って言って教えてあげようと思ったんだけど、やめた。
だって、必要ない。
俺が彼女に会いに来た時点でもうすでに歯車は動き出しているんだから。
だから、心の底から嫌味を込めて
”早くその先輩が帰ってくるといいね?”
って前置きをちゃんとつけてから、
「そばに居てほしいでしょ?」
そう、優しく囁いた。
”可哀想だね、本当に”
言葉とは、裏腹な冷ややかな目で見つめながら。
泥酔していた彼女はそんな俺に
「うん、そばに居てほしい」
寂しげな声でそう答えて顔をクシャッとさせて笑った。
その彼女の言葉をすかさず、携帯で録音。
実際に彼女が”そばに居てほしい”って言ったのは、
”俺”に、じゃない。
彼女が想いを寄せている”先輩”に対して言った言葉。
でも、そんなの俺にとってはどうでもいい事。
後々、彼女の家に転がり込む為の一つの切り札としてさえ使えるんなら、
何でもいい。
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