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「……え?」
僕は言葉の意味が飲み込めず、馬鹿みたく口をあけて呆けることしか出来なかった。いや、もしかしたら、意味を理解したくなかったのかもしれない。それほど、レイコさんの話は突拍子もなかった。
「毎年毎年、【七不思議】と同じ状況で怪我をする人が居る」
確認するように、レイコさんがゆっくりと話し始める。「ここまではいいね?」と、眼で問いかけられた気がしたから、僕は素直に頷いた。
「それと同じでね、姿を消す生徒も居るんだよ……毎年、同じ場所で」
先程の話を、もう一度なぞる様に、レイコさんは繰り返す。理解しやすく、簡潔に。――理解できないことを、理解しないことを、認めない。認めてくれない。そんなやさしくて残酷な声色だった。
「同じ場所、って……図書室とか、中庭とか、屋上とか……ですか」
流石に、ここまで言われて察せないほど、僕は現実逃避が得意ではなかった。――つまり、“ただの噂話”に過ぎない筈の【唄寄中の七不思議】が、現実として、行方不明者を出しているということだ。
「フフ……そう、階段とか、体育倉庫とか、理科室とかね」
レイコさんは口元に手を添え、静かに笑った。そして、僕の考えを肯定する言葉を続ける。「よく出来ました」と褒められている気がした――けど、それよりも、何だか子ども扱いされている気がして、悔しかった。
「……それ、本当なんですか?」
ちょっとだけ八つ当たり気味に、僕は問いかけた。――そうだ。普通ならば、そんなの噂の中に付属するエピソードだと思うだろう。僕も勿論そうは思ったが――目の前の女性から発せられた言葉だと思うと、何故か無条件で信じそうになる。だから、結局、このときも本気で疑っていた訳ではないのだ。苦し紛れに出ただけの質問だった。
「本当だよ、私は、この目で見てきたからね」
――なのに、レイコさんは至って真面目にそう答えた。ふ、と少しだけ俯く。影が出来た所為か、その顔は、どことなく悲しそうに見えた。――何があったのだろう。想像ばかりが膨らみ、それ故に何も言うべきことが見つからない。
「……別に、私や私の知人に何かあった訳じゃないから」
口ごもる僕を見かねて、レイコさんが笑いながらそう言う。だが、さっきのような自然な笑みではなく、その笑みはやはり、ぎこちない。
「まぁ、またいつか、ね。 キミも、わかる時が来るさ」
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