プロローグ

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――市立唄寄中学校。 僕がこの学校に入ったのは、もう7月も半ばを過ぎ、夏休みに入ろうという時期だった。……つまり、僕は季節はずれの転校生ということだ。 流石に7月ともなると、1年と言えど周りに慣れてきているのだろう。僕が転校して来た時には既に――さり気無く、だが確実に、所謂「グループ」と言う物が形成されていた。 当然の事ながら、内気で、「女みたい」と言われる程なよなよしたへタレの僕が、既に出来上がったグループに入り込めるはずも無く――「転校生」という物珍しさから数日は話し掛けられたが、その恩恵も無くなった今、結果として僕は、一人窓際で空を眺めることになっていた。 (夏の日差しって、何か、ノスタルジックになるよなぁ……) なんて、他愛のない事を考えながら、空に上る太陽を見る。頂点はとっくに過ぎ去り、気の早い夏の太陽は既に地平線の彼方へ沈む準備をしている。 時間は午後3時半前後。そろそろ終了の鐘が鳴る頃だろう。そう思った時、僕の考えを見透かして、校内放送で下校を伝えるチャイムが鳴り響く。帰りの会が終わり、おざなりな「さようなら」をして、僕はさっさと帰り支度を済ませる。 別に僕に急いで帰りたい用事がある、というわけではない。ただ単に、用もないのに教室に残っているのが嫌だというだけだ。――話すような人も居ないのに、学校に残る理由なんてない。つまりはそういうことだ。 ガヤガヤと、話し声で飽和する廊下を早足で通り抜けて、僕は下駄箱で上履きを脱いで――そこで、はたと気付いた。 (……そういえば、先生が“渡す書類がある”って言ってたっけ) 転入に関する書類の数は存外多く、転入から一週間は経つ今この時に至っても、全て提出することが出来ていない。――これの一因には、担任がいい加減で、面倒臭がりだということもあると思う。 (職員室はどこだったっけ。まいったなぁ、度忘れしちゃった) 僕はあまり物覚えが良くない。ましてやまだまだ慣れていない新しい環境だ。そんな中、校舎の中を全て把握していることなんて僕にはとてもじゃないが、出来ない。――言い訳ではないけれど、僕じゃなくてもそうだろう。 「仕方ないなぁ……まあ、歩いてるうちに思い出すかな」 僕は脱いでしまった上履きをもう一度履き直すと、階段を上がり、職員室へと向かった。――――職員室は、一階にあったんだけどね。
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