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――――
「……迷った」
当然のことながら、一階にある職員室を探しに二階へ上がっても、到底見つかるはずがなく。馬鹿な僕はそのまま、上へ上へと階段を登っていき――ついに、最上階の五階まで辿り着いてしまった。
一つだけ言い訳をすると、僕の居た小中学校は共に職員室が最上階にあった。だから、最上階に職員室があると思ってもなんら可笑しくはない。――まあ、どちらの学校も職員からの大ブーイングで、来年度から職員室を2階に移動するらしいけど、それは置いておくとして。
目下の問題は、職員室が見つからない、ということだ。もう下校の鐘が鳴ってから30分以上は経っていて、既に窓からは赤焼けの夕日が迫ってきている。
この学校は所謂“マンモス校”という奴で、一階一階が広く、廊下が長いのだ。それに加え南と北に校舎が別れていて、凄くわかり辛い。校舎の案内板などもなく、まったく新入生に不親切な設計だと思う。
(この五階を探して、職員室が無かったら、また明日先生に聞こう……)
僕はそう決めて、この階を探索するべく歩き出した。
一つ目、普通教室。誰かが消し忘れた落書きが黒板に書いてある。二つ目、普通教室。扉を開けたら黒板消しが落ちた。三つ目、多目的室。びっくりするほど机が整っていない。四つ目、普通教室――割愛。五つ目、六つ目、七つ目、八つ目――。
「全然職員室の気配が見えないんだけど……」
途方に暮れて、ため息をついた。幸せが逃げるぞ、と誰かが囁いた気がする。しかし、ここには今、僕しかいないから、それはつまり、僕の心の声だった。
「仕方ないじゃあないか……ため息もつきたくなるさ……」
自分の心の声に反論する。傍から見たら変な人だろうけど、見てる人は居ない。それに、友達のいない僕はこうして自分と喋るしかないのだ。――自分で言っておいて何だが、悲しくなってくる。
「はぁ……」
また一つため息をついて、次の部屋の扉を開けに行く。
後で気付いたことだが、別に教室の扉を空けて確認しなくても、扉の窓から見れば済む。しかしこのときの僕は何故か、“扉を開けて確認しなければならない”と思っていた。
(どうせここも、何も無い普通教室なんだろうな……)
その予想は、当たっていたが、外れてもいた。
九つ目、普通教室――
――――そこには、見たこともないような美しい人がいた。
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