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……数瞬の後、僕はレイコさんに見蕩れていた自分に気付くと、正気を取り戻して口を開いた。
「ええっと……七不思議のことはわかりました」
レイコさんが笑顔で頷くので、僕はまた見蕩れてしまいそうになる。慌てて意識を引き戻し、僕は疑問を投げかけた。
「でも、どうしてそんな話を僕に? ただの噂話ですよね?」
レイコさんが少し首を傾げる。でも、至極尤もな質問だろう。僕は自分で自分に花丸をあげたくなった。
確かにその【唄寄中の七不思議】は面白い噂話だ。しかし、転校して来たばかりの、しかもさっき出会った一年生にする話ではないのではないか。――百歩譲ってただの世間話なんだとしても、それにしては余りに万人受けしなさ過ぎるだろう。そういう話が苦手な人も居る筈だ。――一つ断っておくが、断じて僕の事ではない。
しかし、レイコさんが「何を馬鹿なことを」とでも言いたげな、答えのわかっている愚問を聞かれた時のような顔をしたから、僕は自分でつけたを花丸を破り捨てたくなった。レイコさんは「ああ」とつぶやき、全く思い当たらなかったかのように答えを返す。
「ただの噂話とも言い切れないんだよ」
今度は僕が首を傾げる番だった。
「それって、どういうことですか?」
レイコさんは一瞬だけ逡巡するようなそぶりを見せると、やがて躊躇いがちにこう続けた。
「……うん、 毎年、【七不思議】と同じ状況で、似た様な被害が出ているんだよ」
――七不思議と似たような被害が出ている?
僕はさっきの話を思い返した。――物騒な物ばかりだ。もしレイコさんの話が本当なら、この学校は毎年死人が出ているとでもいうのだろうか?
にわかには信じがたい話だった。
「それは、流石に……もしそうなら、もっと騒ぎになってるんじゃないですか?」
僕はこの学校で死人が出た、なんて話、一度も聞いたことがない。聞いていたならこの学校ではなくて別の学校に行っていたはずだ。僕が望まなくても、きっと両親がそうしただろう。
「ああ、被害と言っても、実際に死体が出たわけではないんだ」
意を得たかのように、レイコさんは頷く。だが、僕は理解できないままだ。
「と、言うと?」
僕は続きを促す。それに対してまた頷いて、レイコさんは続けた。
「えっとね? 怪我人は居るんだ。 でも、死人は居ない。
……つまり、全員行方不明なんだよ」
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