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コンビニ袋の擦れるカサカサという音が近づいてくる。
坂を登って来た重そうな革靴の足音は、そのままわたしの前を通り過ぎるはずが、少し離れたところでぴたりと止まった。
「─どうしたの、そんなとこ座って。大丈夫?」
投げかけられた怪訝そうな声に、クラリネットケースに埋めていた顔をそろそろと上げる。
立っていたのは俊輔の隣人の酒井さんだった。
片手にコンビニ袋をぶら下げ、アパートに続く小路の入り口に立っている。
黒いブーツにボアつきのモッズコート。
襟元から部屋着らしきトレーナーが覗いているところを見ると、少なくともデートの帰りではなさそうだ。
出来ればスルーしてほしかったけれど、─客観的に考えたら、こんな遅い時間に女子高生が自宅の門の前に制服姿で、
しかも寒さに震えながら座り込んでいたら声を掛けられるのも当然というものだ。
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