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抗う間もなく、わたしの顔はグレーのスエットに押し付けられていた。
動きを速め、大きくなっていく心音がはっきりと頬に伝わる。
俊輔の匂いに包まれると、何だか懐かしくて、そして無性に悲しくなって、わたしはすがるようにグレーのスエットを手繰り寄せ、握りしめた。
「……ごめんな」
俊輔は苦しげに息をつき、両腕でしっかりとわたしの身体を包んだ。
抱え込んだ頭を撫で、胸元に優しく抱き締める。
「ごめん。……でも俺、……」
ぼんやりと身を任せるわたしの耳元に、俊輔の囁ささやくような声が下りて来る。
「ズルいな。お前のこと、こうして慰めてるのに。
泣き止んでほしいって思ってるはずなのに。
……心の裏側では、お前が泣いても構わないって、─このままあの二人にうまくいってほしいって、そう思ってる」
「……」
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