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「あーあ。やっぱ、今年の海はもうダメかあ。
……せっかく来たのになあ」
わたしが横須賀に住むようになって初めての、小学三年の夏。
夏休みに入ってから毎日のように通ったあの海の岩場で、わたしたちは波打ち際に浮かぶ無数のふわふわを見下ろしていた。
初めて見るクラゲが怖くて、わたしはその奇妙な生き物を二人の後ろから恐る恐る覗くことしか出来なかった。
海の傍で育ち、この場所を知り尽くしているふたつの小さな背中は、わたしの
目にはとても頼もしく映った。
「去年はクラゲが出るの遅かったから、お盆が過ぎても泳げた覚えがあるんだけど」
俊輔が無念そうに言いながらTシャツの袖で顔の汗を拭う。
「しょうがないよ。また来年、だな」
拓己はそう言いながらも、やはり口調は残念そうだった。
名残惜しむようにその場でカニやヒトデと戯たわむれてから、わたしたちは後ろ髪をひかれながら岩場を降りた。
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