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「こんばんは……」 「こんばんは。何してるの家の前で。 ……反抗期とか?」 「いえ」  わたしは苦笑いしながら背後の真っ暗な自宅を指差した。 「入れないんです。玄関の鍵、忘れちゃって」 「家の人は?」 「今日はみんな遅いんです。 たぶんもうすぐ帰って来ると思うんですけど……」  彼女と遊びに行っている兄はともかく、横浜でデート中の両親はさすがに終電までには戻るはずだ。 「携帯で連絡取ってみた?」 「わたし、携帯持ってないんです」 「じゃあ、どれだけ待たされるか見当もつかないわけか。 それならどこか店にでも入って待ってればよかったのに。寒いだろ」 「そうですね、……そう思ったんですけど……」  演奏会で疲れ切っていたわたしは駅の方に戻る気力もなく、とりあえずここに座り込んで途方に暮れていたというわけだ。
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