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酒井さんはコートの内ポケットに手を入れ、タバコの箱を取り出した。
他のポケットをいくつか探り、オレンジ色の100円ライターを取り出す。
灯された小さな炎は、線香花火を連想させた。
「でもよかったよ、俊輔がグレて家出したわけじゃなくて。
昨日はかなり凹んでたみたいだったから」
「……?」
わたしがきょとんとしている事に気付くと、酒井さんは真顔で天を仰いだ。
「あー……。しまった。
話を逸らそうとして墓穴掘ったパターンだこれ」
「……凹んでた、って……。俊輔、何かあったんですか」
「……んー」
酒井さんは観念したのか、ゆっくりとタバコをふかし、煙を吐いた。
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