658人が本棚に入れています
本棚に追加
「まあ、─たぶん、このことについては君の方が詳しいんじゃないかな。
あいつのお母さんのこと、知ってるだろ?」
「……」
黙って頷くと、酒井さんは小さくため息をついた。
「昨日の夜、連絡が来たんだってさ。
会いたいって。─会って、昔のことを謝りたいって」
目の前に、あの幼かった夏の日の光景が広がった気がした。
『─出戻っちった。へへ。カッコわり』
久しぶりに横須賀に戻ってきたあの日。
駅のホームで、俊輔はそう言って笑っていた。
後ろに立っている父親の気持ちを気遣いながら、わたしたちを気遣いながら、
─小さな体では背負い切れないほどの悲しみに耐えながら。
最初のコメントを投稿しよう!