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「それで、……俊輔は……」
「うん。たまたまあいつが直接その電話に出て、反射的に断ったらしい。
今さら話すことはないって」
「……」
「で、……自己嫌悪で昨日はボロボロ。
俺の部屋に寝転がって、夜中までブツブツ語って帰ってった」
「……自己嫌悪?」
「感情に任せてお母さんにけっこうひどいこと言っちゃったみたいでさ。
『勇気を振り絞ってかけて来てくれた電話なのに、あれじゃあんまりだ』って頭抱えて、あーとかうーとか言ってたわ。
……ほんと、優しい奴だな、あいつ」
酒井さんは目を伏せ、愛おしそうに微笑んだ。
「幸せになってほしいな。俊輔には。
─ああいう奴が幸せになれなかったら、この世はクソだよ」
口に運ばれたタバコの先端が、ホタルのように一瞬だけ輝きを増す。
そっぽを向いて煙を吐き出した酒井さんが、「あ」と坂の下に目を留めた。
「噂をすれば。帰って来たよ、張本人が。というわけで、─今の話、内緒ね」
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