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      揺れる窓枠に片肘を乗せて、夕威は少女を見ている。 遠くまで見渡せるような草一面の平原を、黒い蒸気機関車は緩くカーブを描きながら走っていた。 時折響く汽笛に耳をすましながら、夕威は自分の相向かいに座っている少女、ラシェルを見ていた。 見られているラシェルは、くすんだ金髪の長い髪を、抱えている犬の様な生物に噛まれている事に、多少腹を立てている。 膝丈までのクラシカルな黒いワンピースに、黒いブーツを履いている大きな青い眼の少女は、その眼を相向かいの夕威に向けた。 ラシェルの眼に夕威の姿が映る。 漆黒の髪を肩辺りまで伸ばし、少しきついまなじりが縁取る黒目は、その色白の肌に映えて良く目立った。夕威が着ている服も時代的なスーツで、ベストを中に着込んでいる所は、やり過ぎ感もあるが本人は気にしていない。 自分を見ているラシェルに、優しい声で話しかけた。 「…もう少しで着くよ。」 「マダ、ツカネエノカヨ?」 頷くだけのラシェルの代わりに、その腕の中の犬の様な生物が、口を開いて喋り出す。 夕威は、苦笑しながらそれに答える。 「ラウ、君には退屈だろうけど、仕事なんだよ?」 「シゴトトイエバ、イイトオモッテネエカ?」 ラシェルが無言で、ラウの腹を絞める。 「ウグ。」 呻くラウを見てから、夕威は窓の外を眺めた。 彼に仕事を依頼してきた人物が指定をしてきた駅は、もう少し先の小さな駅のはずだ。 車内に眼を戻すと、ラシェルがラウの腹をまだ絞めている。 息がつまりそうなラウを見て、夕威がラシェルの手を押さえた。 「…そこまでにしておこうよ、ラシェル?」 ラシェルは、夕威の眼を見てから頷き、手の力を緩める。 ラウは息を吐きながら、夕威に文句を言った。 「オイ!モットハヤクトメロヨ!?」 「…ラウ、君は、自分で止めるべきだよ。」 「オレカ?オレナノカ!?」 犬のような口で、ラウが吠えた。 薄茶色の体毛に、小さな眼。今喚いている口も犬の口に形は似ていたが、見えている大きな牙が、犬とは違っていた。 ラシェルが頭を撫でると、少し唸って黙る。 夕威は、笑いながら肩を竦めると、自分の服のポケットを探る。 黒い上着の胸ポケットから出ている銀鎖を手繰り、懐中時計を取り出す。 かちりと音を立てて蓋を開け、時間を見る。
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