*

16/28
624人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
「あの、……髪。 拓己の髪って、きれいだよね。染めてないのに栗色っていうか……」 「まあ、確かに茶色いとはよく言われるけど」  拓己は自分の髪に指先を触れ、 「日に焼けて傷んでるし、きれいとは言われないよ」 「そんなことないよ、……わたし、真っ黒だからうらやましい。 少し色を抜いた方が大人っぽく見えるし、今度、わたしも少し染めてみようかな」  あまり考えずにそう言うと、拓己は少し眉を寄せ、こちらに手を伸ばした。  指先が髪に触れると、わたしの心臓がぴくりと跳ねる。 「黒い髪の方が、……俺は好きかな」  髪に注がれていた視線が、ふとわたしの目に移る。  何かを言おうと開きかけた拓己の唇が、迷い、そして諦めたように結ばれたのが分かった。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!