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黙ったまま見つめ合い、やがてその唇がもう一度開かれる。
「あいつ、……俊輔さ」
出てきた言葉は、たった今呑み込んだのとは別のもののようだった。
「練習、めちゃめちゃがんばってる」
「……」
「このままいけば、たぶんレギュラーに入れる。
─お前との約束通り」
朝練で体力を使い果たし、授業中に居眠りをしている俊輔の姿を思い出し、わたしはふと微笑んだ。
「お前のこと、大事にしろって釘刺しといたから。
泣かせたらすぐに章ちゃんに言いつけるぞって」
「……」
何と答えていいか分からず、わたしは小さな声で「ありがとう」とだけ言った。
「─さて、と」
拓己が壁から身を起こし、腕時計を見た。
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