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「さすがに、そろそろ行かないと。
お前もあんまり遅れるとまずいだろ」
「そうだね」
「じゃな。がんばれよ、部活」
「うん、拓己も」
階段のほうに歩きかけ、その足が止まる。
「亜優」
「……ん?」
「……」
その時、頭上のスピーカーが微かに音を立てた。
遠くから、穏やかなオルゴールの音色がフェードインしてくる。
下校時に放送で毎日流される、聴きなれたメロディー。
─これは……。
『ゆうやけこやけ』だ。
「─抱きしめていい?」
拓己の背中が、ぽつりと言った。
「……最後に、一度だけ」
「……」
その声は、いつもと変わらない、落ち着いたものだった。
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