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「……うん……」  目を伏せ、近づいてくる拓己の上履きを見ていると、次の瞬間、クリーム色のカーディガンに視界を奪われた。  壊れ物を抱くように、拓己はぎこちなくわたしの体を包んだ。  初めて感じる拓己の鼓動は早鐘のように激しく、それでも必死で平静を保とうとしているように聞こえる。  耳元に感じる息遣いが、切なげに震えた。  拓己の匂いは、温かくて、優しくて、……目を閉じると、縁側の陽だまりでうたた寝をしているような、そんな気持ちになった。  背中に手を回し、カーディガンをきゅっと握ると、拓己はさらに強くわたしの身体を引き寄せ、髪に頬を埋めた。  あの頃の、ゆうやけこやけが聞こえる。  この曲が終われば、幼いわたしたちは遊ぶのをやめて帰路につかなくてはいけない。  拓己は橋を渡り、わたしは坂を登って家に向かう。  どんなに愛おしく、いつまでも続いてほしいと願ったとしても、  ─もうすぐ、わたしたちの時間は終わる。
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