凍える夜に

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「私達ね…」 奈央はそっと扱わないと壊れてしまいそうな小動物を愛おしむみたいな目をして話し出した。 「すごく綺麗に別れた。映画やドラマのラストシーンみたいにね…」 奈央は今にも泣きだしそうな顔で微笑んでいた。 「恨みつらみもなく。」 そうおどけた調子で付け加える。 「私達、前を向いて行こうって約束したの。それぞれの道を歩こうって。約束した。一人で行けるって頷きあって確認した。」 「うん。」 「私達の付き合いは決して人様に自慢出来る物じゃなかったけれど、でも素敵に終わらせることが出来た。」 奈央の目からついに一滴涙が溢れた。 「それなのに……」 奈央は言葉を切ってグラスに口をつけた。勢いをつけるみたいにあおるようにぐっと飲む。 「苦しくてたまらない。」 言った後でふぅっと息を吐いて目尻に浮いた涙を人差し指と中指で拭ってから笑った。 「ここにね……」 自分の胸のあたりに手のひらを当てて言う。 「本当に穴があいてるのが見えるような気がする。痛くて。苦しくて。息を吸うたびに体に隙間風が吹き荒れるみたい。バラバラになっちゃいそうだよ。」
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