あの人は私のもの

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「今の人って上村課長代理ですよね?」 愛美が口を開いた。莉乃は途端に緊張した。愛美が上村課代の何を知っているのだろう? 「そうだけど?」 なるべく平静を保つように心がけながら莉乃は返事した。磯谷梨央はランチをほぼ食べ終えようとしている。 「あの人の奥さんてうちの会社の人なんですよね。」 「そうなの?」 梨央が返事をした。 「私は全然知らないですけど鬼川よりずっとずっと前のマネージャーだって。」 「そんな人いたっけ?」 「ここの立ち上げの頃みたいですよ。」 「じゃあ私は知らないや。松本さん知ってますか?」 「私も知らない。発足の頃のことは……」 莉乃はやっと答えた。 その人のことは本当に知らなかった。 (あの人の奥さんて……) 愛美の言葉が耳にやけに残った。それは間違って飲み込んでしまった魚の骨みたいにちくちくと喉の辺りを刺した。 「なんでそんなこと知ってるの?」 梨央が聞いた。 「荻野さんから聞きました。」 「荻野さんってあの営業の?」 「はい。」 莉乃の耳には愛美と梨央の会話が遠くから聞こえるような気がした。発足当時のマネージャーなら今は本部にいる人だろう。 上村さん…… 莉乃には思い当たる顔が浮かばなかった。
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