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それがなんだったのかはわからない。わかりたくもなかった。 香織は勇人を思って泣いていた。その事実を知ってしまうだけで十分だった。 (勇人のことだけしか見えないんだね……俺に抱かれてる時でさえ。) 俺は香織の悲しみを癒やすことも勇人を忘れさせることも出来ないのか? でも、いつかは…… 香織の悲しみが癒える時も来るだろう? 長い年月の間に引き出しにあった何か、いや、引き出しそのものさえどこにいったかわからなくなった。 でも香織の胸にはいつも和志が触れることを許されない鍵のかかった引き出しがあった。 それはどんなにこじ開けようとしても開かない秘密の引き出しだった。
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