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成沢の部屋は3階の通りに面した角部屋だった。階段から一番離れた部屋。
毎朝階段を上がるのも面倒なので携帯にかけて成沢が下りて来るのを待つのがいつものことだった。
「上がってきてよ。」
携帯にかけると成沢がそういうので階段を上がり部屋のチャイムを鳴らした。
すぐにドアが開いて成沢が顔を出した。次の瞬間やられたと思った。
今日美容室に行ってきた。仕上がりはここ最近で一番気に入った。我ながらなかなかいいじゃんと思っていた。
もしかしたら成沢も褒めてくれるかも。そんな期待がなかったわけではない。
私が成沢の顔を黙って見ていたので成沢はちょっと怪訝そうな顔をした。
「どうしたの?ちょっと待ってて。閉めるから中入れよ。」
成沢はすごくかっこよく変身していた。成沢も髪を切ってきたらしい。更に男前が上がっていた。
(敵いっこない…)
気持ちがちょっと萎んだ。
私は玄関に立って後ろ手にドアを閉めた。
「あれ?お前も髪切った?」
成沢が聞いた。
「うん。今切ってきた。」
「偶然だな。俺もだよ。俺達偶然が多いな。」
成沢は愉快そうに言った。
「カッコイイだろ?今俺にヤラレなかった?」
「全然。」
私は言い返した。
「そっちこそ今私にヤラレなかった?」
「ヤラレたよ。ちょっとね。ドキッとした。」
私はその言葉にドキッとした。一瞬固まってしまった。
「冗談だよ。マジに取るなよ。」
成沢はちょっとニヤつきながら私を面白そうに見ていた。
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