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「ごめん。疲れた?よな?」
車に乗り込むとすぐに成沢は言った。
「うん。ちょっと。ね。」
本当はクタクタだった。精神的に疲れた。気が咎めて後味が悪かった。
別れ際、成沢の両親から近々ご挨拶に伺うからご両親様のご都合を聞いておいて欲しいなんて言われたのだ。
「そんなことより早く本当のこと言った方がいいんじゃない?」
「うん。」
成沢はそう答えたきり黙ってしまった。
「でも大変だね。」
私は言った。
「ん?」
「跡取りとかってさ。今でもそんなのあるんだね。お金持ちも大変なんだね。」
私は首をぐるぐる回しながら言った。肩が凝った。成沢が私の方をちらりと見た。
「お前みたいなタイプならやっていけそうだけどな。たくましくて。」
「何それ?どういう意味よ?」
「繊細でナイーブな子だと負けて潰されちゃいそうだけどお前なら渡り合えそう。」
「はいはい。どうせ私は繊細じゃありませんよ。たくましくて悪かったね。ベーだ。」
私は運転中の成沢の横顔に向かって思いっきりあっかんべーをしてやった。
「おかしいな?褒めたつもりなんだけど。」
「褒めてないって。」
「お前のそのタフな感じ、女らしくはないけど俺は嫌いじゃないよ。色気はないけどさ。」
うっすらと微笑を浮かべて言う。完璧な横顔が憎らしい。
「それはどうもありがとう。」
私はぼそっと言った。
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