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「なんとかセーフかな?」
成沢は「23:02」というデジタル表示を見ながら言った。うちのマンションのエントランスの脇だった。
「大丈夫だよ。全然。」
私は言った。今朝ここを出発したのは半日以上前だ。ずいぶん密度の濃い一日だった気がする。
「ありがとう。運転疲れたでしょ。すごく楽しかった。」
実際疲れたけれど楽しかったのは本音だ。
「クルマ好きだから運転は苦にならないよ。渋滞もなかったし。」
成沢は後ろを向いてバックシートから紙袋を取って私に寄越した。次兄の店で渡された土産だった。
「はい、これ。」
「ありがとう。」
私はシートベルトを外してドアに手をかけた。
「本当に今日はありがとう。また…」
また来年、と言おうとした。
「あのさ、初詣行かない?」
成沢が私を遮って言った。
「え?」
「初詣。」
「いいけど…」
正直若干戸惑っていた。成沢は何故私を誘うのだろう。
「家族で行くとか?それかなんか予定あるとか?」
私の歯切れの悪さを感じたらしく成沢が聞いた。
「ううん、予定はない。いいよ。行こう。」
成沢と初詣に行くのに異存があるわけではない。もちろん二つ返事でOKだ。
「じゃあ大晦日の夜から行こう。電話する。」
「うん。わかった。じゃあね。ありがとう。」
車を下りて小さく手を振った。
「おやすみなさい。」
成沢も軽く手を振って走り去った。
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