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「もう元旦なんだね。」
私は成沢に言った。私達は駅から成沢の家を通り過ぎてマンションの前まで来ていた。
「眠いだろ。こんな時間に帰って大丈夫?」
成沢は腕時計をちらっと見て言った。もういわゆる丑三つ時に近い時間だった。
「大丈夫だよ。だって初詣だよ。友達と朝帰りしたことだっていっぱいあるよ。」
成沢は変なところで固いところがある。古風でしっかりした親にお坊ちゃまに育てられたからかもしれない。
「嫁入り前の娘が朝帰りなんて。」
「ナルって時々時代錯誤的なこと言うよね。」
私はそう言って笑った。
「お前さ、ナルって呼ぶなよ。俺はナルシストじゃないぞ。」
「ナルシストだよ。それに成沢のナルでいいじゃん。」
「よくない。今まではそれで甘んじてたけど彼氏だぞ。もっとなんかこう…」
彼氏。そうだ。彼氏だ。
今日という日は特別な日なんだ。元旦というだけじゃなく。
「だってユウキって言うと自分みたいだし。成沢くんじゃ他人行儀だし。」
本当になんというか。同じ名前なんてすごい偶然。まさか付き合うことになるなんて。
「でも俺は勇輝って呼んでほしいな。かわいい声で色っぽく。」
「そもそも私、かわいい声で色っぽくなんてできません。」
「俺は優(ユウ)って呼ぶから。それとも優ちゃんがいい?」
成沢いや勇輝は私のコメントを無視して言った。
「優でいいよ。紛らわしいったら。仕方ないけど。」
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