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「ごめんね。今から会社出るの。」
「うん。じゃあ東京着いたら連絡して。」
「うん。ごめんね。」
私は急いで電話を切った。
携帯をポケットに戻して時計をちらりと見た。19時を少し回っていた。
「デート?」
佐藤さんが冷やかすように聞いてきた。
「違いますよ。友達です。」
私がとりあえず否定すると佐藤さんはそれ以上は突っ込まずに微かに口元を緩めた。
やっとエレベーターが来た。このビルのエレベーターは6基もあるがなかなか来ないのだ。
1階に着いてドアが開いた。私は飛び出したい気持ちを抑えて先に下りる人を下ろす間、開閉のボタンを押して待っていた。
やっと自分が下りると佐藤さんが待っていた。普段なら一緒に駅まで行きましょうというところだが急いでいたのでちょっと困った。
「急いでるんだろ?ほら、走るぞ。」
「え?」
佐藤さんは私の手を掴むと人波を掻き分けて走り出した。私はびっくりしてよろけそうになった。
「佐藤さん、待って。走らないで。」
私は引きずられながら抗議した。佐藤さんは手を離して笑っている。私は呼吸を整えながら軽く睨んだ。
「急いでますけど走らなくても大丈夫です。」
「ごめん。」
佐藤さんはまだ笑いながら言った。
「ほら、急ぐぞ。」
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