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こころ
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「恋をしたようなんだ。」
それを聞いたとき、私は耳を疑った。
恋なんてものからは無縁だと思っていた彼奴から、こんな相談を持ちかけられるとは。
その時何か私の中の黒い部分が流れ出した。
「精神的に向上心のない奴は馬鹿だ。」
私が1度言われ、お前が1番言われたくない言葉。
案の定、身体を強ばらせたお前。
初めての恋を持て余し、苦しんでる心に言ってはいけない言葉を突き刺していく。
ーもう、やめろ!
心の奥底で最後の私の良心が叫んでいるような気がした。
それを淡く感じながらも、私の口は水を入れ過ぎた桶のように、簡単にその言葉を吐き出してしまう。
破滅への一言を。
「精神的に向上心のない奴は馬鹿だ。」
これでお前の恋心が粉々に砕けてしまえばいい。
ーそして私を見てくれ!
しばらく地面を見つめたまま、微動だにしなかった彼奴が、不意に、誰へともなく呟いた。
「馬鹿だ。」
ーお前を誰にも渡さない
確かに私はその時強く、そのことを思った。
「僕は、馬鹿だ。」
ーこれでお前を失わずにすむ。
愚かな私はこの時、この言葉の真意をはかり違えたことに気がつかなかった。
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