こころ

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__________________ ー何故こうなった これでようやくお前は俺を見ていてくれると思ったのに。 お前を失わずにすむと思ったのに。 ー何故? ーどうして? 夜中にした胸騒ぎ それに急かされて覗いてみると、そこにはもう2度と動くことのない彼奴の姿。 「おい、どうかしたのか」 信じたくない お前が居なくなるなんて 「なあ、おい・・・」 傍らに膝をつき、身体に触れる。 その瞬間に分かってしまった。 いや、私は部屋に入った瞬間に、もうすでに分かっていた。 2度とお前が動くことなどないという事実を 「・・・蛍」 久しく呼んでいなかった名前を呼んでみる。 「・・・私のせいなのか?」 ー私が蛍を貶めたから。 「すまない、蛍・・・頼む、起きてくれ・・・なあ、蛍」 腕の中で冷たくなった愛する人を抱きしめる。 呼んでも無駄なことは頭では分かっている。 でもそうせずにはいられなかった。 「・・・蛍ッ」 その時ようやく机の上に手紙が2通置いてあることに気がついた。 私はまるで取り憑かれたかのように、手紙の封を開けた。 一通は蛍の遺書、そしてもう一通は・・・ ー私への恋文だった そこには私への想いが、不器用に綴られていた。 寡黙な蛍らしく、純粋で真っ直ぐな心が。 手紙を読むなり、私は動かない人形になってしまった蛍をかき抱いた。 「すまないッ、すまない、蛍」 届かないと知りながら、謝り続ける。 2度と伝えられない想いも。 声が枯れてきたころ、涙はもうすでに流れなくなっていた。 「そうだ。みんなに伝えないと。」 呟いて、蛍を布団に横たえる。 「蛍・・・、私もすぐに向かうから」 そうして私は蛍の頬を両手で包み込み、口づけを捧げる。 初めてのキスは、冷たい死の味がした。
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