第1章 報酬280億円

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左手には刀が握られている。 端から見ると刀が突然現れたように見えたとしても不思議ではない。しかし感覚としては、"現れた"のではなく、常にそこにある。必要なときだけ、意識をリンクさせる。そんな感覚だ。それが"魔武器"を自在に操るコツである。 左手の親指で僅かに鍔を押し上げ、抜刀する。露になった刀身は、この暗闇の中で妖しげに輝いていた。 もうちょっと待ってな… 少しだけ微笑むと、右手で刀の頭を抑え、刀を鞘に納める。キンッという鞘と鍔の高い接触音が木々の間を縫って静寂に反響する。 しかしカイムの発見報告から、既に数日が経過している。それに加えて、カイムは狩人を見逃した。その事から、既にカイムがここにいないという可能性も低くはない。 カイムが一ヶ所に止まるのは、数時間~二週間程であると言われている。そして、狩人を見逃したという事実において、奴の腹は既に満たされているかもしれない。その時点でいつ移動されてもおかしくはないのだ。 たまたまその狩人が不味そうに見えたというカイムの嗜好の問題という可能性も捨て切れはしないが………。 そろそろ森の中心地くらいまで来たのではないだろうか、というところで、もう移動してしまったのではないかという不安が更に強くなっていく。 ふと、立ち止まった。 それは何か聞こえたのか、それとも別の、第六感のような物によるものかは解らないが、何かが気になったのだ。いやまさか。 進行方向に対して90度左に角度を変え、茂みや木の枝の間を音をたてる事もいとわず疾走する。 少し開けた場所に飛び出ると、そこにはまだ微かに夕陽が差し込んでいた。そして幼い人影があった。 大きな木の根元に、中等部程の年齢の女の子が三人ぐったりと座っていた。慌てて駆け寄ると、ビクッとこちらに反応する。一人の女の子が、がたがたと全身を震わせながらも、しがみついてくる。 「大丈夫ですか?怪我は?」 「く…る…。くる…。くる!!! あ…め…。あかい…赤い目が!!!」 女の子の精神状態は限界のようだった。 赤い目。やはりカイム。 「もう大丈夫だよ。ちょっと待っててね」 すぐ片付けるから… そう心の中で呟き、立ち上がると、清聖を抜きながら振り返る。 そこには血走ったような赤い目が2つ宙に浮いていた。
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