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「ねぇねぇ、お母さん早くぅ」
女の子は枕に埋めていた頭を少し持ち上げ、左手で母親の着ている白い部屋着の肘の辺りを引っぱった。女の子の右側、腰の辺りでベッド端に腰かける母親は、読んでくれると言った絵本を見つめ続けてもう数分になる。
今日もいつもと同じように、女の子が眠りにつくまで絵本を読み聞かせてくれるはずなのだが、"この物話"の時にはよくこうして本を見つめたまま固まってしまう。部屋は暗く、母親の表情は読み取れない。
女の子は少しため息混じりに頭を枕に落とし、母親がそうしているのをぼんやり眺めていた。母親の向こう、女の子の身の丈の何倍もある大きな窓では、蝋燭で照らされた部屋の中の虚像の上に星が瞬いている。
母親ははっと我に返ると、痺れを切らした女の子に謝った。少し捲れた毛布をかけ直してもらうと、髪の毛を撫でられる。
そして絵本を開くと、ゆっくりと語り始めた。
「むかしむかし、神様がいました。
神様は人間を作り出しました。
初めは、おさるさんや、うさぎさんと同じ、言葉も文化もありませんでした。
しかし何百年も経ったころ、人間は村をつくり、たくさんで暮らすようになりました。
そのうち人間は、嬉しかったり、悲しかったり、怒ったり喜んだりするようになりました。
人間の"こころ"が成長していくと、それを全部見ていた神様は、ぱんくしてしまいそうになってしまいました。
そこで神様は、特別な力をもった王様を二人、作りました。
片方の王様には、嬉かったり喜んだりした時に感じる、幸せな気持ちを。
片方の王様には、悲しかったり怒ったりした時に感じる、幸せとは反対の気持ちを観察するように命じたのです。
神様はその中でもいちばん難しい、"愛"という気持ちについては、自分が観察すると言いました」
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