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「ねぇお母さん?」
女の子はまだ起きていた。
いつもなら話の半分も聴き終えることなく眠ってしまっているところではあるが、今日は何故か聞き入ってしまい、眠気を吸いとられてしまった様だった。実際にこの物語を最後まで聞き終えたのは初めてだった。
「なぁに?どうしたの?
珍しいわね」
母親の穏やかな声は、毛布やお風呂よりも女の子の心を暖めてくれる気がした。
「天使さんと悪魔さんはどうなったの?
おしまいって、めでたしめでたしじゃないの?
他の物語は全部めでたしめでたしなのに…」
他の物語では、悪者をやっつけたり、末永く幸せに暮らしました等の締めの言葉が入る。女の子はそんな話が好きだった。誰もが幸福になるようなハッピーエンドが。その女の子の質問に、母親は少し困ったようにぼんやりと笑う。
「そうねぇ。
どう思う?悪魔さんと天使さんはこの後どうなってほしい?」
「うーんと、………仲直りしてほしい」
母親は、今度は本当に嬉しそうに笑った。
「あとね………。"愛"ってなぁに?神様にもわからないんでしょ?」
お母さんはまた笑った。
「お父さんは"まだ早い"って言いそうね。
そうね。お母さんが思うのはね………。
人を好きになったり、大事に思う気持ちのこと。
みんな持っているけれど、みんな自分のそれに気付きにくいの」
「さぁ、もう寝る時間よ。
おやすみ、愛してるわ。美弥」
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