第1章 報酬280億円

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やはりまだ少し肌寒いな…。 フードが一体となった真っ白のコートの襟を、両手で引き寄せ、フードを少し目深に引っ張り下ろす。 もう陽も落ち、辺りは刻一刻と暗闇が射し込んでいく。緑に囲まれ澄み切った空気がさらに鋭く、肺を刺激する。 周囲に立ち並ぶ木々は、昼間は綺麗な緑色に光を輝かせ、その葉の擦れ合う音はこの森を訪れる者の心を落ち着かせる事であろう。しかし今はこの肌寒さと相まって、その音は森が侵入者に対して出ていけと警告している様だ。 この森に来るのは初めてだった。 王都オーラムから徒歩で一日程の所にあるこの森には特に変わった特徴もなく、近くにある中規模の町の人達ですら足を踏み入れるという事もないのだそうだ。まぁ言ってみればどこにでもあるような森だ。 今回の依頼は、SSランク。 数日前、その近くの村の狩人というのが、優雅に飛び回る"そいつ"を見たのだという。その狩人の話によると、頭上を2、3周飛び回ると森の中へと姿を消したらしい。屈強な狩人が、足がすくんで身動き一つとれなかったという。 しかし不思議な事に、狩人にいくら思い出せとせがんでも、姿形の特徴は聴取できなかったらしい。見たのはただ、宙に浮かぶ真っ赤な瞳だけとの事。 だが、その情報からでも十分だった。 更に暗さを増していく森の中を、感覚を研ぎ澄ませながらもずんずんと進む。 …恐らく姿形が解らなかったというのは、"見えなかった"のだ。その魔物の名前はカイム。 紅い目をした鳥の魔物である。その姿に関して、ほとんどの目撃者は"解らない"と答える。そう。カイムは"見えない"のだ。闇魔法に属する魔力を身に纏い、光を全て受け流し人間の視覚での認知を拒否する。しかしカイム自身の視覚のため、目の部分だけはその魔力を纏っていない。よって人間からは目だけが見えるということだ。それなら何故狩人は"優雅に飛び回っていた"等と証言したのかは謎だが…。 ………そしてカイムは人を食す。 その生態は渡り鳥のようなものだ。群れることはないが、単独でほぼ世界中を渡りながら生きる。その際の食料というのが人間だ。 移動した先で寝床を見つけると、人間を何人か拐い、腹を満たした後、また次の地へと旅立つのだ。 もうそろそろ森の中心地くらいまで来たようだ、少しずつ戦闘の準備が必要か。 立ち止まり、何かを掴むように左手を腰に近付ける。心の中でゆっくりと名を呼んだ。 ………"清聖"。
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