モノゼブ

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新宿駅南口を出ると良平はふらふらと左手に歩き始める。GAPの巨大広告を横目に下りのエスカレーターに乗った。 ぼんやりしていたため、下り口で胸元にグルメクーポンの真赤なロゴの入ったTシャツを着た女の子から笑顔で冊子を渡される。良平が、三次元の女の子に微笑まれるのはこういう時だけだ。 一度も使ったことのないグルメクーポンのフリーペーパーを受け取って、こんなものさえ拒否できない自分の不甲斐なさをせせら笑った。 不甲斐なさを嘆いていたらきりがない。 今日も本当ならば、エントリーシートを書いたり、求人情報を検索したりするほうがよほど建設的なのに、いつもの現実逃避をしに向かっている。 大塚家具を通り抜けると、新宿世界堂につく。9時半の開店時間まで、あと5分。開店前からじいっとドアが開くのを待っている。開店と同時に店内に入り、上の階から隈なく店内を徘徊するのが、彼の現実逃避だ。 良平の現実逃避には何種類かは、あるが、これが最も第三者が理解に苦しむエスケープだろう。
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