モノゼブ

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「ロビン? どうしたの? あっちへ行きましょう。かわいそうだけどケージの中に入ってちょうだい」 ケージの中に入れられたら緑のピルを探すことができない。けれど体は勝手に由美香の母親の言いなりに、リビングにあったケージの中に吸い込まれていった。 しばらく勝手がわからず、狭い空間をぐるぐる歩いていたが、ラグビーボール型のクッションに無性にかじりつきたくなり、かじっているうちに、良平は眠くなった。 「なんで寝てんのよ! あんたアタシが稼いだ金で生活してるよね? 勝手に寝てんじゃねーよ!」 「由美香ちゃん。ごめんなさい。ちょっと、疲れてて、うとうとしてたの」 「は? 疲れた? 疲れたって言ったの? どの口が言うわけ? こっちは何時間も収録した上、おっさんに奉仕してきたんですけど」 キリキリと尖った声と、ほとんど悲鳴に近い声が聞こえて良平はカッと目を見開いた。リビングで、帰ってきた由美香に母親がののしられている。 ごめんなさい。ごめんなさいとか細く言う女の頭を、由美香はマグカップで殴っている。 ゴッ! ゴッ! ゴッ! 人の体から聞こえてはいけない音が深夜のリビングに響いた。 「あの犬と一緒に寝たら? それから、来週までにあの犬に、ユニークな芸を仕込めって松村さんから言われたから、そうして。できなかったら、分かってるよね?」 母親は大きく目を見開いて声もなくただただ頷いていた。
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