70人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
良平が、徘徊の末購入するのは、MONOの消しゴムかZEBRAの水性ボールペン。不必要な物を一つだけ買っていくのは、ここに来て2時間以上も徘徊する気休めの罪滅ぼしだ。アルバイトの従業員に『モノゼブ』と呼ばれている事も良平は知っていた。
良平はここで深く息をする。絵具や紙や、インクの匂い。薄く漂う香りのすべて。目を大きく見開いて視界に入ってくる物のほとんどが愛おしい。
絵を描きたい。本当は絵が描きたい。
けれど、高価な画材は一切買えない。
それどころか、これから先どうしていいのか分からない。もう夏も過ぎ、秋になろうとしているのに就職が決まらない。
新潟から、東京の私立大学に行くために借りた奨学金の事が常にちらつく。高校生の時には誰も教えてはくれなかった。大学に行っても就職が決まらない事があるだなんて。未来についてリスクを省いて希望を話した大人が恨めしかった。奨学金の返済額があんなに高くつくなんて。誰も教えてはくれなかった。
最初のコメントを投稿しよう!