モノゼブ

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良平が、徘徊の末購入するのは、MONOの消しゴムかZEBRAの水性ボールペン。不必要な物を一つだけ買っていくのは、ここに来て2時間以上も徘徊する気休めの罪滅ぼしだ。アルバイトの従業員に『モノゼブ』と呼ばれている事も良平は知っていた。 良平はここで深く息をする。絵具や紙や、インクの匂い。薄く漂う香りのすべて。目を大きく見開いて視界に入ってくる物のほとんどが愛おしい。 絵を描きたい。本当は絵が描きたい。 けれど、高価な画材は一切買えない。 それどころか、これから先どうしていいのか分からない。もう夏も過ぎ、秋になろうとしているのに就職が決まらない。 新潟から、東京の私立大学に行くために借りた奨学金の事が常にちらつく。高校生の時には誰も教えてはくれなかった。大学に行っても就職が決まらない事があるだなんて。未来についてリスクを省いて希望を話した大人が恨めしかった。奨学金の返済額があんなに高くつくなんて。誰も教えてはくれなかった。
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