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青々とした木々を背後に真新しい木造の平屋が立っていた。
黒々とした瓦屋根は夏日の光を受け、輝いている。
「あら?栗ったら。急ぎすぎてお弁当忘れちゃったのね」
誰も寄せ付けないような雰囲気の漂う屋敷からはそんなのんびりした声が聞こえたーーーー
*
ガシャンっ
自転車のスタンドを荒々しく下ろす音がその空間に響く。
バッと自転車のカゴから皮カバンを取り上げ、鍵を掛けて駆け出そうとした時、学校中に響くチャイムが鳴った。
思わず舌打ちをしそうになったが我慢する。
チャイムが鳴ると同時に走って教室に行くその気でさえ失せてしまった。ゆっくり行こう、そう思って歩き始める。
あー。またやってしまった。学校自体は遅刻にはならないだろうけど、授業遅刻にはなる。今週3回目だ。
いい加減にしろ、とか言われそうだな。
大抵の先生はそうだ。1、2回目までは誰であろうとも注意するだけ。
今日の1時間目は何だったっけ。
あ、そうだ。数学だ。
ぅあ。ナイスガイ、か。めんどくさ。
ぼーっと1人考えながら自転車置き場から自らの教室に向かう。
「おいっ」
「はい?」
声の聞こえた校舎の屋根を見れば黒髪の男が立っている。
日の光を背後に受けて顔が見えない。逆光だ。
「どなた?」
誰かわからない以上いつもどうりに話してはボロが出る。
あたしの言葉を聞いた彼は5,6mはある屋根から飛び降りてきた。
「俺だよ。俺。母さんがお前が弁当忘れたから持って行ってくれっていうから持って来てやった」
見てみれば許嫁で幼馴染の拓亜だ。
ズイッと突き出された赤い巾着袋は間違いなくあたしのだった。
「ありがと。あんたの方が先に着いてたんじゃなかったの?」
「誰かさんの目覚まし時計が意味わからん時間に鳴るから夜中に起こされてそっから寝れなかったんだよ。その誰かさんは起きないしな。そのおかげでまた寝れたのは朝5時。そりゃ寝坊もするってもんでしょ。ね、だれかさん」
歩きながらそんなたわいない話をする。
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