屋敷の姫

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前の扉に取り付けられた小窓から見えるナイスガイ……いやいや、菜砂 雅維人<なずな がいと>。我が校のルーキー、24歳、が今日も朝から後ろの壁に張り付いて授業を監視する重役方に笑顔を振りまき、あたしたちが今まで理解したことすらない謎の数学講義をしている。 今出ていったら恥ずかしすぎるじゃん… しかも拓亜にあんなこと言われてニヤケてんじゃん… 冷たすぎるとまで言われるあたしがニヤニヤしてるとこなんて見せらんないじゃん… 1人悩んでいると扉の音が横から聞こえた。しかも後ろの扉である。 誰だよ… 「おい、不知火。入るか入らないかどっちなんだ」 重役方の中には担任もいたらしく後ろの扉から顔を覗かせる。 「…入ります」 前の扉から入るならまだしも担任に見つかって遅刻者丸だしとか恥じさらしもいいとこだ。 あたしは縮こまって入るしかなかった。 目の前のクラスメートは驚きの渦に飲み込まれている。 「不知火さん珍しくね?」 口々にそういうのが聞こえて顔が赤くなった。 革かばんを抱えて素早く窓際の席に座った。 目の前の友達、柚葉は幼馴染みで唯一あたしと拓亜の関係を知っている。 そんなにあたしが遅刻したのがおかしいのかしらないが人の気もしらないでゲラゲラ笑っている。 「ほらほら。不知火だって完璧じゃないんだから笑うな」 耳の片隅に必死に笑いを噛み殺したナイスガイの声が入り込んできた。 笑ってる奴がそんなフォローしたってなんの意味もねぇっつーの。 そんな風に毒づきながら数学の教科書を取り出す。 一通り笑い、クラスは水を打ったように静かにナイスガイの講義を耳に通す。 ただ耳を通すだけ。 内容なんて一ミリも脳の中に残ってなどいない。 ノートは取っても内容は何一つ頭に入っていない。 あたしの頭は昼に拓亜に奢らされることだけしか考えていなかった。
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