屋敷の姫

8/11
前へ
/11ページ
次へ
午後七時 日本家屋の面影の根強い長屋の南に位置するあたしの部屋にあたしはいた。 今日は我が一族と一族傘下の分家が集まる総会の日。 明るい色の木材が近年この長屋が建てかえられたことを物語っている。 ただただ広い敷地内には宗家、つまりはあたしの一族の家、分家のうちの1つである炎城家の家、そして一族の特殊な家業の為に建てられた道場が2つ存在する。 今日はいつもとは違う、白に近い水色の振り袖に紺色の袴を履く。 この服装は炎城家に嫁いだ大おば様がすこし前まで身につけていたものであたしは初めてこれを着る。 総会に参加するといってもこの参加は三,四年ぶりで最後の総会のとき、あたしは小6だったし、なにより小さくて大人たちの話なんて半分も理解できていなかった。 家業のことも最近、四歳年上の兄が務めに参加することになって前よりは敏感になった。 というより薄々、家業のことは肌で感じていた。家の周りにあたしの知らない“気”がときどき現れたり。 だから今日がどんな日なのかも理解しているつもりだった。 けどそんな考えは軽薄で今のあたしは全身がガチガチで緊張で固まっていた。 空気を吸うことすら肺が縮こまってしまったみたいに辛い。 心臓が肋骨を叩く音がうるさいくらいに聞こえてきて部屋全体に響いているように感じる。 一族と分家の後継代があたしたちの家系内においての成人である16歳に達した時、我が家業に関する一切の事項を伝えるという伝統的な儀式のようなものが目の前に迫っているのだから緊張しても仕方がない、とそう言い聞かせれば言い聞かすほど落ち着きを無くす。 あたしと拓亜と柚葉と翔護と灸は皆同じ年に生まれたから五人そろってこの儀式をすることになっていたのだ。 兄は四年前に同じような儀式を受けているけど、そんなことあたしは全然知らなかった。 時計を見るともうこの部屋をでなければいけない時間だと気づいた。けど、正座していた足には妙に力がこもっていたみたいで痺れて立つことができない。 ふと前をみると部屋の障子が開いて赤が特徴的な袴を履いた拓亜がいた。 「…バカ」 ふっ、と笑うとそんな言葉を呟き立たせてくれた。 部屋を出ると柚葉と翔護と灸もいる。 「はぁ…緊張するわね」 予想外の一言を呟いたのは柚葉だった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加