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カチ、という音がして、天井からぶら下がっている裸電球がじわじわと光を放ち始める。
「ちょっと暗いけど、もうすぐ外が明るくなるから、ガマンな」
室内が徐々に照らされていくと、去年の夏、一度だけ見た車庫の中の光景がゆっくりと広がった。
拓己は買った飲み物を棚の上に置いてから部屋の奥まで進み、暗がりと同化している黒っぽいカバーを引き上げた。
中から出て来たのはあの時見た空色のスポーツバイクだ。
あの日と同じように澄まし顔でバイクスタンドに収まっている。
「いつもカバー掛けてるの?」
「全然乗れてないから、埃被っちゃうんだよな」
「練習、忙しいもんね」
「せっかく買ったのに構かまってやってないから、たぶん拗ねてるな、こいつ」
そう言われると、何となくツンとそっぽを向いているように見えてくる。
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