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湿ったローファーに足を入れ、雨音の響く昇降口に立つ。
薄暗い電灯が、雨粒の大きさをはっきりと照らし出していた。
─バス停まで走るしかないかな。この雨だと、どのくらい濡れるんだろう。
どこか他人事のように、落ちていく雨粒をぼんやりと眺めていると、背後でカタン、と音がした。
「─亜優ちゃん？」
その声を聞き、とたんに胸が鉛のように重くなる。
振り向く気力もなくそのまま動けずにいると、ローファーの足音が近づいて来て隣に並んだ。
「傘、ないの？」
井上芹香が心配そうに首を傾げた。
アッシュブラウンの巻き髪がふわりと揺れる。
「うん。誰かが間違えて持って行っちゃったみたいで……」
「そうなんだ。ひどいね。
─じゃあこれ、よかったら使って？」
目の前に、黄色い傘の柄が差し出される。
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