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もちろん、拓己にサッカーをやめてほしくない。
でも……拓己はわたしの話を聞いてくれるだろうか。
きっと、顔さえ見てくれない。
無視されるのが分かっていて話しかけるなんて、─。
─これ、俺がもらってもいい?
─俺が、俊輔の代わりに、使うよ。
─あいつがそれを望んでるかどうかは分からないけど、……この靴紐は俺が引き受ける。
目頭が熱くなり、わたしは目を閉じた。
瞼の裏に、小学校の校庭でボールを追うあの日の俊輔と拓己の姿がはっきりと浮かんだ。
「─お先に、失礼します」
わたしはカバンを胸元に抱き、北村先輩に深々と頭を下げ、足早に音楽室を出た。
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