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放課後の理系校舎は静まり返っていた。
一年の時、二階の化学実験室は使ったことがあるが、それ以上の階に上がるのはこれが初めてだ。
階段を駆け上がり、三階の廊下に出る。
─拓己のクラスは─。
わたしは息を整えながら、真っ直ぐに伸びる無人の廊下を進んだ。
校庭に出て探したけれど、ボールの飛び交うサッカーグラウンドに拓己の姿はなかった。
昇降口で確認したら、まだ拓己の革靴が残っていた。
教室に荷物が残されているかどうかを見て、もしあったらここで待っていよう。
とにかく、今すぐ拓己を捕まえなくては。
『誰かのために大事なものを捨てたら、きっと後悔するのに』
伝えなきゃ、拓己に。
無視されても、迷惑な顔をされてもいいから、─退部なんかしないでって、絶対に今、伝えなきゃ。
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