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 指運がいつになくスムーズで、一番苦手な個所もなんなくクリアする。  音の響く位置がいつもより高く、頭の上に抜けていくように感じる。  ここからは得意なところだ。  このままの調子で、走らず、テンポを意識して─。 「二ノ宮、やめるらしい」  唐突な日南子の言葉に、リードミスしたわたしのクラリネットから「ピーーー」という耳障りな音が飛び出した。 「……え?」 「部活。やめるらしいよ、二ノ宮」 「……っ」  ガタン、と椅子を鳴らし、わたしは立ち上がっていた。 「─拓己が? サッカー部を?」 「そ。……退部届、カバンに入ってたんだって。 昨日の帰り、教室で貴也が見たって」 「……」
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