-1-

5/22
前へ
/37ページ
次へ
 呆然と日南子の顔を見つめていると、その大きな目がちらりと周囲を見回した。  我に返り、周りの部員たちがポカンとわたしを見上げていることに気付く。  音楽室の前方では、北村部長が振り向いてこちらに静かな視線を送っていた。 「すみません……」  ストンと椅子に座ると、音楽室は何事もなかったように再び楽器の音で満たされた。 「ごめん。……言うかどうか、ずっと迷ってたんだよね。 亜優、よりによって今日はなんか今までになく元気ないから、こんなこと伝えたら倒れるんじゃないかと思って」 「……」  黙って譜面をめくり、また最初のところから吹こうとしていると、日南子がスパンとわたしの背中を叩いた。 「……痛い」 「ちょっと」 「何」 「なんでノーリアクションなの」 「……」  わたしの脳裏に、雨の中で仲よく揺れるクマのキーホルダーが過った。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

563人が本棚に入れています
本棚に追加