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呆然と日南子の顔を見つめていると、その大きな目がちらりと周囲を見回した。
我に返り、周りの部員たちがポカンとわたしを見上げていることに気付く。
音楽室の前方では、北村部長が振り向いてこちらに静かな視線を送っていた。
「すみません……」
ストンと椅子に座ると、音楽室は何事もなかったように再び楽器の音で満たされた。
「ごめん。……言うかどうか、ずっと迷ってたんだよね。
亜優、よりによって今日はなんか今までになく元気ないから、こんなこと伝えたら倒れるんじゃないかと思って」
「……」
黙って譜面をめくり、また最初のところから吹こうとしていると、日南子がスパンとわたしの背中を叩いた。
「……痛い」
「ちょっと」
「何」
「なんでノーリアクションなの」
「……」
わたしの脳裏に、雨の中で仲よく揺れるクマのキーホルダーが過った。
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