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『分かっただろ。
─俺が、俊輔を死なせた。
だから……。あいつは俺にサッカーの夢を託したりなんかしない。
─お前のことだって……』
「わたし、……何も言ってあげられなかった」
去っていく拓己の寂しそうな背中が浮かび、胸の奥が引き絞られるように痛んだ。
「気休めでも、何か言ってあげればよかった。
拓己が少しでも、楽になれること……」
─わたしは、……どうして拓己を抱きしめてあげなかったんだろう。
すがり付いて泣きついてでも、拓己の心を引き留めるべきだった。
「もう、寝ろよ」
兄は再びわたしの髪を撫で始めた。
「今日はゆっくり休んで、また明日考えればいい」
大きな手は、心を直接撫でられているように優しくて、心地よくて……。
大げさでなく、目を閉じるとほとんど同時に、わたしは眠りに落ちていた。
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