第一話 陽炎の悪戯

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**** 「センセイ、聞こえてます?アイスと桃どっちが良いですか?」 台所から聞こえたその声に顔を上げれば、『練乳ミルクバー』の箱と、こぶし大の桃を手に頬を膨らます相川が立っていた。 …………。 練乳ミルクバー、ヤバいから。 「あ、俺、桃が良いかな。悪いね、手間取らせて」 いや、学習能力くらいありますよ俺、大人ですから。 「いえいえ、おかーさんに、"あんたは社会の成績悪いんだから、せめて桃でも剥いて、ポイント上げときなさい"って……」 「んなもんで、ポイント上がるかっつーの。成績上げたきゃ勉強しろよ。学生の本分は勉強」 よし、釘刺しはこれで完了。 どうやら俺は、変な幻を見ていたようだ。 その証拠に、俺も相川も着衣に乱れは無いしな。 うん。 ただ、妙にリアルだったなアレは……。 思い出せば、何となく下半身が変な気分になるが、ダメだ、ダメだ。 俺は一度大きく深呼吸をする。 「はい、センセイどーぞ」 目の前に置かれた硝子の器には、何故か洗っただけで水滴が滴る桃があった。 「剥くと、果汁が流れちゃうから、自分で剥きながら食べてくださいね」 「なにそれ、ポイント付かないからって嫌がらせか?」 「いやいや、それは気のせいですよ、さ、どうぞセンセイ、ぬるくなりますよ~」 文句を吐く俺の横で、器用に桃の皮を剥く相川は、白っぽい果肉が現れると、それをパクっとかじる。 溢れる果汁がその唇を濡らして、ぬらりと光った。 …………。 まあ、男なんて単純だ。 第一話 陽炎の悪戯 ――完――
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