第二話 陽炎の残火

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振り返れば、そこにはつむじが一つ。 少し視線を下げると、此方を見上げる相川の顔があった。 どうやら、夏休みの間に髪を切ったらしい。 だって、こいつのトレードマーク――頭のてっぺんに乗っかった団子が無い。 頬に掛かる、外跳ね毛先がふよふよ揺れている。 「何?あと二点負けとけってのは却下だぞ?」 夏休み前に刺しといた釘が多少は効果を発揮したのか、いつもは20点行かないくらいの点数が、今回は28点。 …………。 いや、誤差の範囲かもな。 すると、相川は手にしていた答案用紙を指差して、やや遠慮がちに口を開いた。 「センセイ、ここ"足利たか氏"合ってますよね?」 「いや、お前漢字で書けなきゃダメだろ」 「そこを何とか!」 ならねえよ。 食い下がる相川に、俺は目を閉じ口を真一文字に結んで首を振る。
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